平成20年4月1日施行の「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」により、一般社団法人や一般財団法人が誰でも登記のみで簡単に設立が可能になりました。
これまでは医療機関の開設者は個人か医療法人が中心でしたが、一般社団法人及び一般財団法人による開設という選択肢が増えたのです。
従来、公益活動を行うためにはNPO法人が設立されていました。しかしNPO法人は認可に手間がかかる上に法整備が整っていない、という問題点があり、現在ではこの一般社団法人・一般財団法人の設立が主流になりつつあります。
そして今、この新たな主流が「第三の開業方法」として医療業界で注目を集めています。
開設手続きがスピーディー、税制上のメリットが多い、代表者の医師・歯科医師要件がない、新規開業時からの法人化が容易、など、様々なメリットのあるこの新たな開業方法について、デメリットも含め、成り立ちから詳しくご説明します。
- 一般社団法人と一般財団法人の違い
- 一般社団法人で医療機関を開設する方法、医療法人との違い
- 保健所の許可を得るための審査のポイント
- 一般社団法人と一般財団法人の活用法
- 一般社団法人で医療機関を開設する場合のメリット
- 一般社団法人で医療機関を開設する場合のデメリット
◆ 一般社団法人と一般財団法人の違い
- | 一般社団法人 | 一般財団法人 |
---|---|---|
特徴 | 人の集まり | 物の集まり |
目的 | 目的に対する制限ない。公益事業、収益事業、共益事業いずれも可能 | |
社員資格 | 制限ない。定款で自由に決めることができる | |
設立時に必要な人数 | 2人以上 | 7人以上 |
役員 | 理事1人以上 | 評議員3人以上、理事3人以上、監事1名以上 |
基金 | 制限なし | 300万円以上 |
配当 | できない | |
法人税 | 普通法人と同じ。ただし非営利型は収益事業のみ課税 |
◆ 一般社団法人で医療機関を開設する方法
医療機関を開設する場合、個人開業の場合は、「①保健所への届出」のみで開設することができます。対して医療法人の場合は「➀都道県の認可 ②法務局への登記 ③保健所の開許可 ④開設届」を行ってはじめて開設することができます。
特に「➀都道府県の認可」をもらうためには沢山の書類を提出し、厳しい審査を受けた上で申請から約6ケ月後にやっと認可されます。
一般社団法人の場合は「➀都道府県の認可」が不要となっていますので、「③保健所の許可」がおりれば開設可能となります。
- | 一般社団法人 | 医療法人 | |
---|---|---|---|
設立 | 登記のみ | 都道府県による認可と登記 | |
診療所、病院開設 | 保健所による許可が必要 | 保健所による許可が必要 | |
申請時期及び時間 | いつでも可能、すぐに設立 | 年に2回、6ケ月の審査期間が必要 | |
拠出金の制限 | 無 | 有(行政指導による) | |
理事長要件 | 無 | 医師又は歯科医師 | |
業務制限 | 無 | 医療及び附帯業務に限定 | |
社員 | 1人以上 | 3人以上 | |
役員 | 理事会を設置しない | 理事1人 | 理事3人以上 監事1人以上 |
理事会設置 | 理事3人以上 監事1人以上 |
||
配当 | 不可 | 不可 | |
税務の特例 | 非営利型でれば保険収入に対応する所得に対して法人事業税非課税 公益法人になれば法人税等非課税 | 保険収入に対応する所得に対して法人事業税非課税社会医療法人になれば法人税等非課税 |
◆ 保健所の許可を得るための審査のポイント
ひとつには、非営利性が徹底された法人であること。
具体的には、➀定款の中に、毎年の利益の配当はできないこと、②解散した場合には公的なところに残余財産が帰属する旨の記載があること。③役員のうちに占める親族の割合が1/3以下であることが求められます。
◆ 一般社団法人・一般財団法人の活用法
- 医師会、学会、勉強会、組合、ボランティア団体等営利を目的としない組織を法人化できる
- 医療法人と同じように病医院を経営できる
- 業務に規制がないので一般の株式会社と同様に営利事業も行うことができる
- 出資持分がないので、法人に資産を移転させることにより相続税対策を行うことができる。(相続税が非課税とされるためには一定の要件を満たす必要があります)
- 公益性が高い事業を行っているのであれば公益認定を受ければ公益事業に対する利益に対しては税金がかからなくなる
- 一般社団、一般財団の設立後管轄する都道府県(複数の都道府県で事業を 行っている場合には内閣府)に対して公益法人の認定申請を行うことができます。公益法人として認定されれば、補助金の受給、公的業務の請負、税制等に おいて有利な扱いを受けることができるようになります。
- 病院勤務をしながらクリニックを経営(別ページ)
- 新しい開業方法「オンライン診療での開業」(別ページ)
- 医療法人経営のクリニックを一般社団法人の経営に変更(別ページ)
◆ 一般社団法人で医療機関を開設する場合のメリット
- 医療法人で開設する場合に比べ登記のみで設立することができ、都道府県の認可が不要なので、早く開設することができる
- 医療法上の医療法人ではないので、医療法人に課されているいろいろな規制を受けない ※医療法人に対する規制 ① 設立時、分院申請時等の定款変更の認可
- 一般社団法人で設立した後、公益法人になれば税制上のメリットが非常に大きい 公益法人の場合、公益事業に対する利益に対しては、法人税・法人住民税・法人事業 税が非課税になります
- 個人に多額の借入金があり、医療法人化が難しい医療機関も、一般社団法人ならば自由 に借入金の引継ぎが可能
- 医療法人の場合、代表者は医師または歯科医師で、事業範囲は、医療介護に限られるが、一般社団法人の場合代表者の医師歯科医師要件はなく、目的を変えれば医療以外の事業も自由にできるので法人としての自由度が高い
- 新規開業時から法人化したい場合、医療法人だと認可に6ケ月間もかかるのと、新規開業での法人化を認めていない都道府県が多いので、事実上難しい。 一般社団法人の場合は、登記のみですぐに設立できるので、新規開業時からの法人化が可能である。
- 一般社団法人には持分がないので、一般社団法人の財産には一定の条件(※)を満たせば、相続税がかからない
※相続税が課税されないための一定の条件:同族役員(理事)の数を全役員の1/2以下にする
② 毎年の純資産登記、事業報告の義務
③ 医療介護以外の業務ができない業務制限
④ 資産運用の制限(不動産投資。株式投資等不可)
⑤ 理事長の医師歯科医師要件
◆ 一般社団法人で医療機関を開設する場合のデメリット
- 保健所の開設許可申請にあたっては前例が少ないので、初めから断られたり、開設許可に時間がかかる可能性がある。
- 営利型の一般社団法人(役員の親族割合1/3超)になった場合、保険収入に対する所得に対しての事業税の非課税の規定が適用されない
- 役員の親族割合が1/2超になった場合、理事の相続発生時に一般社団法人の財産に対して相続税がかかる
- 一般社団法人が開設する診療所の数が増えてきた場合医療法人と同等の規制がかかる可能性がある
◆ 一般社団での医療機関開設は湯沢会計にお任せください
一般社団法人での医療機関の開設申請に要する時間は、申請をする保健所の「実績」に左右されます。既に他クリニックの開設が許可されていれば比較的早くなり、そうでないなら根気を要する事になる確率が高いです。
一般的に役所の担当者は保守的な人が多いので、一般社団での医療機関開設の相談に行くと、「前例がないので許可できない」「法人で開設するなら医療法人で開設してください」と門前払いされる事も珍しくありません。
このように自力での開設に失敗した人たちから湯沢会計は相談を受け、開設に成功しています。その範囲は徐々に広がっており、現在は、全国どこの地域での開設もお引き受けするようになりました。
しかし、この一般社団法人での医療機関開設という手続きに関しましては、高度な行政折衝のノウハウが必要であり、また担当者との相性なども関係してくる事から、お引き受け時には100%設立可能とは申し上げられません(もしうまくいかなかった場合には設立手数料ははいただかないという100%成功報酬の形を取らせていただいています)。
医療法人と比較していろいろなメリットがある一般社団法人での医療機関開設は、今後とも増えていくと思います。数が増えれば保健所は統一のルールを作成し、その基準は今よりも厳しくなる事も予想されます。
法人化をお考えの皆様、いつでもどこでも設立可能な一般社団法人を検討されている方は急がれることをお勧めいたします。
新しい医療機関の開設手段である一般社団法人、一般財団法人。メリットとデメリットを把握し、正しく活用していきましょう。